新人ライターである自分、佐藤昇(さいとうのぼる)は対談風のブログ記事を書いているという「なない氏」の元を訪れた。
佐藤: 本日はよろしくお願い致します。
なない: いや、ちょっと待って下さいよ。なんなんですか。いきなり玄関でボイスレコーダー取り出されても……。新聞の勧誘ですか? しゅ、宗教関係ならお断りですよ!
佐藤: え? あ、あぁ、申し訳ありません。私こういうものでして……
なない: なになに……「ツブレソウ新聞社」。こんなふざけた新聞社知りません。帰ってください。
佐藤: い、いやいや、本当ですって! 上司の菊池からなないさんの事を伺いまして、本日インタビューさせていただければと思いまして、参上いたした次第でございましてですねぇ……ええと……
なない: ああ、菊池さん。
佐藤: あ、ご存じですか?
なない: いいえ、全く。
佐藤: とにかく私は怪しいもんじゃありませんから、まずはお話を……
なない: 玄関先でいきなりボイスレコーダーを突きつけてくる人が怪しくないと言ったら、どんな人が怪しいんですか。とにかく帰ってくださいよ。
佐藤: そういうわけにはいかないんですよ。お願いします!
なない: では、近所のカフェに向かいましょうか。
佐藤: あ、ありがとうございます。では、お願いします。
なない: ……と言いたいところですが、この辺りにそんな気の利いたものはありませんでした。近所にあるのは錆びた滑り台とシーソーとペンキのハゲたベンチがある公園ぐらいなものです。
佐藤: ではそこで話しましょうか。
なない: 嫌ですよ、そんなところ。
佐藤: ならお家に入れて頂いて……
なない: だ、誰が、そんな不審人物入れますか! いいから帰ってください!
佐藤: 私にも生活があるんです! お願いですからインタビューさせてください!
なない: 嫌ですよ! 近所に気の利いた喫茶店でもあれば別ですが……あぁ、作りましょうか。
佐藤: え?
なない: 外へ出て見て下さいよ、隣が喫茶店になっていますから。
佐藤: あれ、住宅しかなかったと思いますけど……
なない: いいからいいから。
(二人、玄関から外に出る)
佐藤: あ、あれ!? なんで店が!? さっきまでこんなものなかったと思いましたけど!?
なない: まあまあ、話は店の中でしましょうか。
(喫茶店の中へ移動し、窓際の座席につく)
佐藤: 空いてますね。
なない: そういう設定ですから。
佐藤: なにか狐に化かされているような気分ですが……なんなんですかね。
なない: ええまぁ、幻ですから。
佐藤: なにがですか?
なない: 全てがですよ。この景色もこの喫茶店も全てが幻です。狐に化かされる以前の話ですよ。
佐藤: すいません、いきなり哲学的な話をされてもついていけなくてですね……
なない: いえ別に哲学でもなんでもありませんよ。この喫茶店は存在しませんから。
佐藤: ちょっと何を言っているのかわからないんですが……。もっと率直にいっていただけますか。
なない: だから、ここ現実じゃないですから。
佐藤: ……なにを言ってるんですか?
なない: まさかこの説明がこんな長くなるとは思わなかった……ブツブツ……。単純にこのインタビューが虚構ですからね。簡単にいうと、あなた、ただの想像上の人物です。
佐藤: はぁ? あの、いきなりそんなぶっ放されても困るんですけど。そもそも今日は……まぁ私も上司から詳しい話を聞かずに「とにかく行って来い」とおしり叩かれてきただけなんですけど、対談風のブログ記事を書いているというのでその話を伺いに来ただけなんです。
なない: それを今書いているんですよ。
佐藤: あれ、まだ書かれていないんですか。私はてっきりそういった記事を何本を書かれていて、それを見た上司が私に行って来いと言ったのだと思ったんですけど。変なことするなぁ、あの人も。
なない: あぁ、すいません。その人も実在しませんね。名前だけです。
佐藤: ですから、そういう婉曲発言は……ちょっとやめてもらえますか。よく意味がわからないので。それにちょっとイラッとしますので。
なない: あかん……リアリティラインを間違えた。
佐藤: なにがです?
なない: いえ、人物のリアリティラインの設定を間違えたといっているんですよ。あ、あなた、真面目すぎですよ。これじゃ話が平行線じゃないですか。とにかく、ここは私の頭のなか! 今あなたと話しているこの内容自体が「対談風ブログ記事」なんです! そして、あなたも想像上の人物! わかります!?
佐藤: はぁ……? だからそういうことを言われても……
なない: ちょ、私が頭おかしい訳じゃないですからね! 本当にそうなんですよ! いきなり喫茶店が現れたでしょう。ここが現実でないことの証拠です。というか、そこを承知した上のキャラクターを作るべきだった! 全然話が進まないーーー!!
佐藤: なんなんですか……一体。
なない: ど、どうしたらここが現実でないことを信じてくれます?
佐藤: そんなことを唐突に言われてもですね……信じませんよ。なんなんですか、本当に。
なない: 小説の中で普通に自分で考えて行動する自立型キャラクターを対談に組み込むとこうなるのか……。これは困った……
佐藤: なんなんですか。私は単純にインタビューに来ただけなんですが。まだ書かれていないということですが、どういう内容を対談形式で掲載する予定何ですか?
なない: だから……この会話とかがまさにそうなんですが。
佐藤: あぁ、なないさんもボイスレコーダーとかで記録されているんですか? 見たところそういったものを持っているように見えませんが。
なない: えぇ、まぁ……そういうことにしておいてください。
佐藤: これからはどのように進めていくつもりですか?
なない: ええとですね……そのまんまです。インタビューしてくれる相手にいろいろ話をしていく感じでヨモヤマ話を書いていこうと思いまして。言いたいことをずらずら書いていくより、対談形式・会話形式のほうが頭が回っていいたいことが言いやすい気がしましてね。だからまぁ、あなたを作ったわけなんですが……
佐藤: 作ったと言われましてもねぇ。
なない: 機嫌を悪くされても困ったなぁ……。まぁ、そのうち近いうちに状況を納得していただけると助かるんですが……ってなんでこんな下から出ないといけないんだろう。
佐藤: 意味がわからないのはこちらですがね。
なない: あかん……雰囲気が悪すぎる。ええっと、ではまた今度ということで。
佐藤: そうですね。また明日出直してきます。それでは失礼します。
正直に言って「なない氏」は理解不能な人であった。
そう思いながら喫茶店を後にした。
■後書き
小説とかで使うタイプのキャラクターに「いやここは現実じゃないから」とか言ったらこうなってしまった……
普通にそういうことを承知しているキャラクター設定にしておけばよかったぜ(汗;
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